「解散権がないことがイギリスを追い込んでるんだよ」-ブレグジット

解説:イギリスのEU離脱の混乱が収束しません。今月、ジョンソン首相がEUをまとめた合意案が18日にイギリス議会で否決され、今月末に離脱に期限を迎える中で、また振り出しに戻ってしまいました。

前メイ首相の時から、首相がEU相手にまとめてきた離脱案を議会が否決することが繰り返されています。この混乱の原因について、私の見方はイギリスでは首相に解散権がないからだと考えます。この視点で論じる日本のメディアが少なすぎると思います。

-解散権とはどのように行使されるか

2010年のイギリス総選挙でどの政党も過半数を取ることができない事態が発生しました。こうなると、複数の政党が連立を組んで、過半数を得るしかありません。その際に、保守党が自由民主党と連立を組む為に、自由民主党側が要求した議会任期固定法を制定します。

この法律は、内閣不信任決議に対する解散権行使か、下院の3分の2以上の賛成による自主解散によってしか、議会が解散されないことを定めるものです。つまり、首相の解散権を事実上、取り上げるものです。

これにより、イギリスの首相は解散権を行使できない状態になりました。議会の多数派が首相の政策に全て賛成してくれるのであれば、問題は起きません。首相は議会の多数派の指名によって、選出されるからです。

しかし、EU離脱のように多数派内でも賛否が分かれるような事案になると、議会の多数派の同意を得ることができなくなります。日本で言えば、小泉純一郎元首相の時の郵政民営化法案の時を思い出して頂けると近い事例かと思います。

郵政民営化法案の時は議会の多数派である自民党の中で、多くの反対議員がいて、自民党内をまとめることができず、参議院で法案が否決されるに至りました。そこで、小泉元首相は衆議院を解散して、郵政民営化を争点として、総選挙を行いました。その結果、自民党が大勝し、民意を得たことで、反対派だった議員も賛成に転じ、郵政民営化法案は議会の賛成多数を持って成立しました。

郵政民営化や小泉元首相の「郵政解散」についての是非は今回論じませんが、この例では首相の進めたい政策に対して、議会の反対にあって、政策が停滞したときに、首相が解散権を行使しました。そして、選挙によって民意が示された結果、議会も民意を受けて賛成にまわり、議会として法案を可決したという流れです。

このように解散権があれば、首相が進めたい政策に対して、議会が反対した際に、議会を解散して民意を問うことが出来ます。それがイギリスでは、この首相の解散権がない為に、今回のような混乱が続いているのです。

-解散権の制限は主権者を見下す行為

日本では、この解散権について、前回と前々回の衆議院選挙の際に、多くの批判にさらされました。「大儀がない」、「野党の準備不足と狙ったものだ」、「イギリスは解散権に制限をかけているのに日本はおかしい」などの批判がありました。

しかし、今回のイギリスのEU離脱についての堂々巡りを見ると、首相に解散権がないということは、これだけ政治を停滞させるという見本になっています。内政に関するものであれば、影響は国内のみで収まりますが、ブレグジットのように他国が絡む外交の問題についても、首相が多国間で合意したことを議会が否定し続け、その議会を解散する手段がないので、また再交渉と繰り返せば、国際社会からの信頼も失ってしまうことになります。

そもそも、解散権を行使して、総選挙を行うということは、国民が選挙を通じて、主権を行使する機会を得るという見方もできるのです。この視点を無視して、解散権が自分の権力強化に利用する為にあるかのように論じるのは、主権者である国民が時の権力者に有利な投票しかしないと決めつけて、主権者を見下している議論だと思います。

むしろ、解散権がないことで、イギリスは国民がEU離脱に関して、主権を行使する機会を奪われているのが現状です。そして、合意なき離脱の期限が迫っており、首相も国民も手の打ちようがなくなっています。

まとめ:事実を知って国民で考えよう

この状況を三権分立に沿って考えてみます。(今回関係の無い司法は除く)国会、内閣、司法の三権分立において、議会は内閣に対して、総理大臣の指名と内閣不信任案の決議権を持っています。内閣は国会に対して、国会の召集と議会の解散権を持つことになっています。

現在のイギリスでも内閣は国会に対してこの二つの権限を持ってはいます。ですが、議会の解散権は、内閣不信任決議に対する解散権行使か、下院の3分の2以上の賛成による自主解散によってしか行使されなくなっています。内閣が内閣のみの判断で議会を解散させることができないのです。

このように考えますと、イギリスでは解散権が首相=内閣に実質的にないことによって、一方で議会の権限が圧倒的に強化されており、三権分立が成立できていないのではないかという現実が見えてきます。

このイギリスの状況は同じ議員内閣制の日本が勉強できる事案です。それにも関わらず、日本のマスコミはイギリスの首相と議会との対立のみにフォーカスし、首相の解散権がないことが根本原因であることに言及しません。

前回、前々回の安倍首相が解散権を行使したことに対しては、マスコミや立憲民主党をはじめとする野党は、「解散権を制限しろ」、「解散権を制限しているイギリスは進んでいる」と批判していたにも関わらず、今回、イギリスが「解散権を制限しているからこそ」起こっている政治の停滞については、表面上の報道しかしません。

このダブルスタンダードの姿勢こそが、マスコミや野党勢力が信用されない原因だと思います。そして、そういう報道しか見てない人たちにこそ、こうした政治現象の背景を知ってもらい、日本はどうしていけばいいかを考える人が増えてほしいのです。

単純な表面のイギリスの首相と議会の対立というだけでなく、どうして対立が起こり、どうして解決しないのかという原因には「首相の解散権」という日本の政治制度にも関係する要素が潜んでいるという見方も、人とは違った見方と言えるのではないでしょうか。


投稿者: ミカタマン

福岡県出身、熊本在住の普通のサラリーマン。2児の父親です。ニュースを見てひとりで文句を言うのが趣味です。その趣味が高じてこのブログを立ち上げました。

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