「結局、原因の種を植えたのはアメリカなんだね」ートルコシリア侵攻

解説-10月9日、トルコ軍はシリア北部の少数民族クルド人の武装組織「人民防衛隊」(YPG)の支配地域に対して、越境攻撃を開始しました。YPGはトルコ国内のクルド人の反政府武装組織「クルド労働者党」(PKK)とつながりがある為、YPGをテロリストと認定し、エルドアン大統領は「トルコに対するテロの脅威を排除するのが目的だ」と表明しています。

私は攻撃を仕掛けるトルコが悪いとか、トルコ国内の武装組織とつながりがある為、クルド人が攻撃されても仕方がないという見方ではなく、元をたどればアメリカのせいではないかという見方をします。

-トルコはNATOの一員。西側陣営のはずだが?

NATO(北大西洋条約機構)はアメリカを中心とした西側諸国がソ連(東側諸国)を中心に作られたワルシャワ条約機構に対抗して作られた多国間軍事同盟です。1949年に発足していますが、55年のドイツの加入よりも先の53年にトルコはNATOに加盟しています。

NATOは域内いずれかの国が攻撃された場合、共同で応戦・参戦する集団的自衛権発動の義務を負っています。このNATOが冷戦において果たした役割は大きく、同盟国内で軍事情報や核兵器までも共有することで、東側陣営に圧力をかけ続け、最終的にはソ連の崩壊まで追い込み、西側陣営の勝利に貢献しました。

トルコはそのNATOに早期から加入していた自由主義陣営=西側陣営の国です。そのトルコがエルドアン大統領の就任後は急速に独裁色を強めていきました。同時に、アメリカから離れ、ロシアに接近する動きを強めています。

-IS殲滅とクルド人

トルコのロシア接近にはシリアの内戦とIS(イスラム国)が大きく関わっています。2011年にチュニジアで起きたジャスミン革命を発端とする民主化運動の「アラブの春」に触発されたシリア国民が民主化を求め、アサド大統領はこれを弾圧します。これがエスカレートし、アサド政権と反体制派によるシリア内戦が勃発します。

アメリカを中心とした欧米諸国はシリアのアサド大統領に対して、民主化運動を弾圧し、反体制派に化学兵器を使用した疑惑などから、退陣を要求してきました。これに対して、中東に影響力を強めたいロシアは内戦時からアサド大統領支持を鮮明にしてきました。

民主化運動後の内戦では絶体絶命まで追い込まれたアサド政権でしたが、IS(イスラム国)の台頭により、命拾いをします。テロ組織にも関わらず、国を作ろうと画策したISはシリア領内に支配地域を広げていきました。また、その支配地域では人権無視の残虐行為が行われていることが明らかになっていきます。

ISは国際社会の絶対的な敵になり、国際社会が団結してISを壊滅させることが至上命題というコンセンサスが形成されていきます。その後、アメリカとロシアを中心として、IS壊滅作戦を実行していきます。当然、シリアの内戦はアサド政権、反体制派の間で継続されていましたので、シリア国内で、IS、アサド政権、反体制派の三つ巴の展開となってしまいます。

IS壊滅が最優先課題となってしまったことが、アサド政権の息を吹き返させることにつながってしまいます。IS殲滅の為という理由がロシアにシリア領内の軍事展開する口実となってしまったのです。

これに対して、アメリカは反体制派を支援する形で、IS殲滅を目指しました。しかし、アメリカはここで今回のトルコの越境戦争につながる失敗を犯します。シリア領内にいた「国を持たない最大の民族」と言われるクルド人民兵組織YPGを連携相手に選び、武器供与や軍事訓練を行い、ISとの地上戦を行ったのです。

結果としてISは壊滅しましたが、ロシアの支援を受けたアサド大統領は支配地域を広げ、反体制派の勢力は大きく減少しました。また、YPGの活躍もあり、トルコとの国境を接するシリア北部には、アメリカ軍が駐留する実質的なクルド人の自治区ができました。

実は、当時のオバマ大統領が地上軍を送ることができず、地上軍を事実上、「人民防衛隊」(YPG)に委任し、武器を渡してしまったことが、今回のトルコのシリア北部への越境戦争につながっているのです。

-トルコの視点に立てば・・・

この状況をトルコの視点に立つと、自国とシリアの国境に自国内の分離独立を目指すクルド人反政府武装組織「クルド労働者党」(PKK)と同じクルド人でつながりがある「人民防衛隊」(YPG)が存在しているのは、国防上の脅威です。

また、シリア内戦による難民の流入も止まりません。エルドアン大統領もEUが軍事攻撃を「占領」と呼ぶなら、数百万人の難民を送り込むと発言しています。EUへの難民流入を塞ぐ役割を押し付けておいて、エルドアン大統領が敵だと見なしているクルド人に肩入れするアメリカやEUに対する怒りも理解できる部分はあるのです。

結果的にとは言え、国内で手を焼いているPKKにつながっているシリアのクルド人に武器を供与し、国防上の脅威を増幅させてしまったアメリカに不信感を抱くことも理解できます。

トルコにとってみれば、シリア北部の国境沿いにクルド人の国家が出来てしまうことは何としても避けたい事態です。「敵の敵は味方」と考えれば、シリアのアサド大統領はクルド人を挟み打ちする上で、戦略上仲良くすべき相手となります。同じくその後ろ盾であるロシアも同様です。

だからこそ、2015年にはトルコ領内でロシア軍機が撃墜された後、悪化していた両国がいつの間にかガスパイプラインを繋ぎ、最新鋭地対空ミサイルを購入するまで接近しているのです。

まとめ:アメリカが紛争の種を蒔いて育てている

NATOの一員でありながら、武器をアメリカの潜在的な敵国であるロシアから購入するというトルコの行動は、本来であれば、アメリカが激怒してもおかしくないことです。しかし、トランプ大統領はオバマ前大統領のせいだと非難はしたものの、現実的にトルコに対して具体策を講じていません。

それどころか、今回のトルコから攻撃されているシリア北部でも、米軍が撤退すれば、トルコが軍事作戦を実施する兆候があったにも関わらず、撤退してしまいました。案の定、その翌日にトルコは越境攻撃を開始しています。

結果として、オバマ大統領の米陸軍を送らず、地上戦をクルド人に任せたという優柔不断さが、クルド人が武器を持つことになり、トルコの脅威と見なされました。また、トランプ大統領は「自国ファースト」を貫く為、そのIS殲滅に貢献したクルド人を見殺しにする形で、シリア北部から米軍を撤退し、トルコ軍の攻撃を招いた形です。

このように考えると、攻撃しているトルコも攻撃を受けているクルド人もどちらもアメリカの被害者とも見えてきます。当事者ばかりに目を奪われず、背後や歴史を見てみるという見方も人とは違った見方と言えるのではないでしょうか。


投稿者: ミカタマン

福岡県出身、熊本在住の普通のサラリーマン。2児の父親です。ニュースを見てひとりで文句を言うのが趣味です。その趣味が高じてこのブログを立ち上げました。

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